圧倒的な才能
子供の頃から絵が得意だった。(いや、菅原芳人氏の話ではなく私の話である)学年に2〜3人いる<絵の上手な子>で、賞もたくさんもらった。大人になってからも気が向くと絵を描いた。……作画作業中の菅原芳人氏を見るまでは。
初めて絵を描いている彼を見た時、彼はプリントの余白に鉛筆で落書きをしていた。最初に小さく人間の指先を描き、そしてそのまま腕、肩、頭、胴体、足と、アッという間に描き進めた。出来上がったのはイキイキと動きのあるポーズをとったスーツ姿の男性の全身で、表情や洋服のしわなどの細かいディテールも見事だった。バランスを取りながらまず全体を大雑把に描き、その後で細かい部分を描き込んでいくという手順で絵を描いていた私にとって、いきなり細かい部分から何もかも一気に一発で描き上げる彼の描き方は衝撃的だった。また、指先から描き始めたことも非常に興味深く、聞いてみたところ「たまたま今は指先から描いただけで、どこから描いても同じ。頭の中で既に出来上がっているから」との返事。私には未知の感覚であった。
面で描くときも同じで、真っ白い紙に最初の一筆を入れる前から、彼の頭の中には揺るぎないビジュアルがある。だからこそ、写真も映像も存在しないビジュアルを、まるで見たかのように描き上げることができるのだ。そしてそのビジュアルは決して塗り重ねて完成に近づくのではなく、最小限の面を刻んで描かれる。選び抜かれた一筆一筆は、そのどれもが最も効果的な場所に最も効果的なカタチで配され、無駄がない。
迷いのない手さばきは完成品からも伺い知ることができるが、実際に目の前で見ると想像していたよりもずっと速い。
その才能は圧倒的である。私がどんなに鍛錬して腕を上げても絶対に追いつくことはできない。なぜならたとえ遥か彼方であろうとも、彼は私の延長線上にはいないのだ。
戦意?喪失した私は以来18年、完全に<観る側>の人間になって菅原芳人氏の作品を楽しんでいる。
山岡孝一(デザイナー)